矯正治療で歯が移動するのは「炎症作用」と考えられています。人為的に炎症を引き起こすことで、歯を移動させているため、矯正治療は痛みを伴うのです。
歯科医院で処方される解熱鎮痛消炎剤、NSAIDsという末梢神経系に作用する強い抗炎症作用があるお薬が多いのですが、矯正治療には「アセトアミノフェン」という解熱鎮痛消炎剤が処方されます。NSAIDsのような強い抗炎症作用がある解熱鎮痛消炎剤は鎮痛作用は強力ですが、抗炎症作用も強いため歯の移動を阻害してしまう可能性がありますが、アセトアミノフェンは中枢神経系に作用し、抗炎症作用をほとんど無く、歯の移動を阻害しないため矯正治療には理想的な痛み止めといえるのですが、鎮痛効果は弱めだと言われています。
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NSAIDsとは
NSAIDsとはNon-Steroidal Anti-Inflammatory Drugsの略であり、「非ステロイド性抗炎症薬」という意味です。NSAIDsはアラキドン酸カスケードのシクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害することで、プロスタグランジン類の合成を抑制すると言われています。プロスタグランジンの中でも、特にプロスタグランジンE2(PGE2)は起炎物質・発痛増強物質で、NSAIDsは主にプロスタグランジンE2の合成を抑制することによって鎮痛・解熱・抗炎症作用を発揮します。喘息を持ってる方で、NSAIDsを服用することで喘息発作が誘発される方もいるようです。成人喘息患者の約10%の方にこのような症状があると報告されており、以前はアスピリン喘息と呼ばれていました。アスピリン以外のNSAIDsでも症状が誘発されることから、現在では「NSAIDs過敏症」という名称がよく使われているようです。NSAIDs過敏症はアレルギーではなく、アラキドン酸カスケードのリポキシゲナーゼ経路活性化によるロイコトリエン異常産生によるものと考えられています。NSAIDs過敏症には、喘息型と蕁麻疹型があり、どちらの症状もNSAIDs服用後30分から数時間以内に反応があります。
アセトアミノフェンとは
アセトアミノフェンは鎮痛、解熱作用をもつ薬ですが、抗炎症作用は非常に弱いと考えられています。抗炎症作用が弱いことから、消化管、腎機能、血小板機能に対する影響は少なく、NSAIDsが使用しにくい場合にも用いることができるお薬と言われています。欧米やアジアの一部では、がん疼痛に対して使用されるアセトアミノフェンの経口投与量は、4時間毎に1回650mg、または1,000mgを6時間毎に投与し、1日最大量は4,000mgと言われていますが、これらの経口投与量では、肝細胞壊死は起こりにくいとされており、本邦では2,400mg~4,000mg程度が一日の妥当な鎮痛量であり、肝機能障害に注意しながら4,000mgまで増量が可能だと考えられています。投与は1日4 回程度に分けて行い、1回投与量が1,000mgを超えないように注意しましょう。アセトアミノフェンの副作用は、一般的な投与量では起こりにくいと考えられており、NSAIDsのような胃腸障害や腎障害の副作用はないとされています。
しかし、稀に皮膚粘膜眼症候群皮疹や、その他のアレルギー症状、過敏症状、肝機能障害、黄疸などが起こる場合があります。また、顆粒球減少症の報告例もあり、最も重篤な急性の副作用は、過剰投与による肝細胞壊死であると言われています。
またアルコール常用者はそのリスクが高まるため注意が必要です。飲み合わせについても、血栓塞栓症の治療で処方される「ワルファリン」や、てんかん、躁うつ病、三叉神経痛などの際に処方される「カルバマゼピン」を服用されてる方は、薬剤師、又は医師に伝えた方がいいでしょう。
歯科医院で処方される薬
歯科医院では矯正以外でも、痛み止めや化膿を抑制するために薬を処方することがあります。
痛み止め
痛みがある時や、痛みが出る可能性がある時、抜歯後、外科処置後などに処方されます。痛みを弱くする効果はありますが、完全に痛みがなくなるということではありませんので、ご注意ください。症状に合わせて、必要な時にだけ飲むよう勧められることが多いのですが、効き目を求めてついつい飲みすぎる傾向があるようです。量を飲みすぎると副作用が増加してくる薬剤ですので医師や薬剤師の指示を守りましょう。
抗生物質
抗生物質は感染した細菌、真菌、ウィルスが増殖する働きを抑制し、感染症を治す効果があると言われています。歯科では、親知らずや歯肉が腫れたり、抜歯を行った時に処方されることが多いです。抗生物質の服用を途中でやめてしまったりすると、耐性菌を作りやすくするとも言われているので、最後までしっかりと飲みきることが大切だと言えるでしょう。
胃腸薬
抗生物質の中には胃腸を荒らし、潰瘍を起こしやすくするものがあるため、抗生物質と一緒に処方されることがあります。
うがい薬
うがい薬は歯や口腔内を清潔に保つために処方されることがあります。抜歯を行い、消毒をした後に処方されることが多いと言えるでしょう。他にも口内炎が気になる方、口腔内に傷ができている方に塗り薬が処方されることもあります。薬は使い方を間違えると、効力を発揮しなかったり、副作用を起こす場合もあるため、適正な使用方法が大切です。
また体質にも関わってくるため、薬を飲んで、かゆみ、発疹などのアレルギー反応が出たことがあったり、ご家族内でアレルギー反応が出たことがある方や、喘息をお持ちの方、腎障害、肝障害のある方、妊娠中または授乳中である方は、医師、または薬剤師に相談した方がいいでしょう。