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歯科における漢方薬

漢方とは、古来中国から伝わり、日本において発展してきた日本の伝統医学のことを言い、西洋薬や西洋医学では治しきれない病気などに対して、大きな効果を発揮することがあります。さまざまな生薬を組み合わせることによって、その人の体質・症状に適応することが可能な漢方薬には、何千年もの歴史があり、近年では歯科の分野にも普及してきました。

漢方薬の効果は、保険が適用される歯科治療には使用可能な漢方薬が限られていますが、患者さまの症状を丁寧に観察、把握することで処方が可能になります

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漢方が使われる歯科分野の症状と療法

漢方が処方される歯科分野の症状はいくつかあり、「ドライマウス」や「口内炎」、「舌痛症」のほかに「味覚障害」や「食いしばり」「歯ぎしり」などを引き起こした場合に処方されることがあります。

漢方が処方されるのには、体の免疫力が落ちることで、口腔疾患を患っている可能性もあるため、漢方で体の免疫力を高めることを同時に行うことにより、口腔疾患に良い影響を与えると考えられています。

ドライマウス(口腔乾燥症)に対する漢方療法

唾液の量が十分でなく、口の中が乾く症状を口腔乾燥症と呼びます。唾液腺分泌量に影響する原因として年齢、唾液腺の炎症や腫瘍、シェーグレン症候群、糖尿病、栄養障害、薬物の服用、放射線被爆、ストレスなどがあげられます。治療法には、唾液分泌を促す改善薬、唾液腺などのマッサージなどがありますが、漢方が有効な場合も多く見られます。

薬剤を服用することで「薬剤性口腔乾燥症」が発生したとしても、薬剤を簡単に中止・変更したりすることは難しく、そのような場合に漢方療法が有効になります。

漢方の石膏(セッコウ)には、硫酸カルシウムを主成分とし、熱や炎症をひく強い作用があり、知母(チモ)、粳米(コウベイ)も熱を取り、唾液量を促進し潤わす、滋養・滋潤作用をもつ人参(ニンジン)、緩和作用の甘草(カンゾウ)が加わり、これらがいっしょに働くことで、よりよい効果が期待出来ます。

また、ある種の漢方療法は、舌が腫れるようになり、起床時に歯の圧痕が付いたりすることで、水分代謝の改善を図り症状の改善をするケースもあります。利尿作用のある猪苓(チョレイ)、軽い発散薬である桂皮(ケイヒ)、その他、茯苓(ブクリョウ)、蒼朮(ソウジュツ)、沢瀉(タクシャ)などが配合されて、よりよい効果が見込めます。

口内炎に対する漢方療法

口内炎になりやすい体質の人であったり、細菌やウイルスに感染することによってできる口内炎もありますが、「アフタ性口内炎」という口内炎は、鉄分やビタミンの不足、ストレス、睡眠不足、歯ブラシなどでの粘膜への刺激、口の中の乾燥に不衛生、免疫力の低下が理由として関わっているのではないかと考えられています。

漢方治療では、ストレスが多く、舌の上が白くなっているものなどに対しては、口腔粘膜等の消化粘膜の調整を行い、胃腸の働きを促すことで、口内炎と口内炎から起こる食欲不振の改善が期待できます。

熱や炎症を冷ます黄ごん(オウゴン)、黄連(オウレン)、健胃作用や粘膜に対する障害緩和作用のある乾姜(カンキョウ)、 大棗(タイソウ)などが加わり、これらが半夏(ハンゲ)、甘草(カンゾウ)などといっしょに働くことで、口内炎に対する効果をさらに発揮すると言われています。

舌痛症に対する漢方治療

舌痛症とは、口の粘膜に生じる原因不明の痛みで、口の中がヒリヒリ焼けるような痛みや、不快な異常感覚が毎日繰り返し、原因疾患を認めない病気です。舌痛症の痛みの程度はさまざまですが、ストレスが原因の一つと考えられており、日常生活に支障をきたす方もいるといわれています。

漢方療法では、疲労倦怠、食欲不振などの体調不良に対しての全身的な状態の改善を行い、体力や気力を補います。当帰(トウキ)、川芎(センキュウ)、芍薬(シャクヤク)、地黄(ジオウ)、蒼朮(ソウジュツ)、茯苓(ブクリョウ)、人参(ニンジン)、桂皮(ケイヒ)などで気や血の巡りなどを良くすることで症状の改善を図ります。

味覚障害に対する漢方療法

突然、食べ物の味がわからなくなる味覚障害や味がおかしくなる異味症に陥る人も実は少なくありません。舌の上面にある味蕾(ミライ)から神経を介して脳に伝わって感じる経路のどこかに異常があると味覚障害が生じます。味覚障害に用いられる漢方薬では、気分がイライラし、胸が苦しく胃部がつかえたりする症状に有効です。黄連(オウレン)、黄ごん(オウゴン)、黄柏(オウバク)、山梔子(サンシシ)などにより、体の熱や炎症を取り、機能の調整を行い、イライラ感、不眠などのストレスも緩和します。

食いしばり・歯ぎしりに対する漢方療法

食いしばりや歯ぎしりに関連して起こる頭痛や肩こり、筋肉の凝りを改善する療法です。桂枝(ケイシ)・芍薬(シャクヤク)・生姜(ショウガ)・大棗(タイソウ)・甘草(カンゾウ)・葛根(カッコン)・麻黄(マオウ)を加えたもので、葛根には鎮痛作用があり、とくに首筋の凝りをとる作用があると言われています。芍薬は代表的な鎮痛剤の一つで、生姜・大棗は全体の副作用を緩和する目的で加えられています。

漢方に副作用はあるの?

漢方薬は、生薬を主に使用しているため、一般的には副作用はないと考えられています。めったに副作用は起こらないようですが、処方の仕方によって、稀に下痢や嘔吐、むかつきなどの症状が現れる場合があります。

また、漢方には副作用に似た、瞑眩(メンゲン)という反応があると言われており、治療中に漢方薬の効果が上ったため、治癒していく前の一時的な不快症状がでる場合がありますが、これは副作用ではなく、不快症状が一時的に起こった後、回復に向かいます。起こった不快症状が、副作用なのか、瞑眩(メンゲン)なのかという判断は難しいため、下痢・嘔吐・むかつきなど症状が起きた後も、2~3日経過を見ながら服用してみて、それでも発疹、吐き気、動悸、倦怠感などの症状が変わらず続くような場合には、副作用の可能性があるため、服用を中止しした方がいいでしょう。

漢方では、症状ひとつだけを見るのではなく、体全体を通し、その人自身と心の働きを見ます。このことから、一見関係のないように思われる症状まで、1つの漢方薬で対処できることもあると言われています。

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